福澤諭吉の『文明論の概略』は、来るべき先進国日本のビジョンと思想を呈示したものであり、「国家百年の大計」であったと言えるし、それがそのまま実現した所の、日本国の背骨となった思想であると言えるであろう。
西洋は主としてキリスト教文明であり、日本国は、神道、仏教、儒教文明であったが、西洋は、キリスト教に加えて、近代の学問と技術などの高度な智慧を有していた故に、学ぶに足るものであったのである。
しかしながら、徳性においては、キリスト教も、神道も、仏教も、儒教も、特に優劣というものがある訳ではない。「脱亜入欧」といっても、福澤諭吉は、全く神道や仏教や儒教を軽視している訳ではない。また、キリスト教を全面的に肯定している訳でもない。
それぞれの良い所を学んで、「宗教多元主義」の精神哲学の下に、「心学」として、実践哲学として、徳道として、それらの教えを全て調和融合させてゆくものである。
智慧というもの、学問というものこそが文明の本質であり、智と徳の両方を身につけているということが、真なる文化文明を創ってゆくのである。
故に、「智徳の模範」ということが慶應義塾大学の理念であり、それが近代日本国の文明文化の精神を創っていったのである。
現代においても、主要先進国G7の議長国としてリーダーシップを執っているのが日本の文明文化である。その上で、この日本国には、西洋と東洋の橋渡しをしてゆく使命もあるのであり、悠久の時を経て育まれてきた伝統文化もあるのである。